BioStation のリリースについてまとめたものです。
1 BioStation 2.0-beta のリリースについて
この文書は,BioStation 2.0-beta の公開について述べたものです。昨年2003年6月にABINIT-MP BioStation 1.0-Release を公開以降に追加された機能,修正されたバグについて説明します。
このソフトウェアは下記の4サブシステムが含まれています。
・ab initio FMO法による分子間相互作用解析プログラム ABINIT-MP
・in silico 詳細スクリーニングシステム BioStation Dock
・可視化・解析ツール BioStation Viewer
・統合システム BioStation Launcher
これらのサブシステムのうち,ABINIT-MPとBioStation Viewerは従来配布していたもの後継で,バグ修正と機能強化が施されています.BioStation Dockは,タンパク質と低分子化合物との結合状態を探索するソフトウェアです.同時にABINIT-MPの入力に利用できる複合体の立体構造を作成するためにも使用します.BioStation Launcherは他のシステムのへのGUIを提供します.
表 1.1 BioStation 2.0-beta の配布ファイル.
対応OS |
ファイル名 |
内容 |
Unix/Linux |
all.2.0-beta.tar.gz |
BioStation version 2.0-beta のフルセット.
ソースファイル一式,利用マニュアル,サンプルデータ,Viewerの実行ファイル,インストーラ
|
minimuim.2.0-beta.tar.gz |
BioStation version 2.0-betaの最小構成セット.
ソースファイル一式,利用マニュアル,インストーラ
|
dat.2.0-beta.tar.gz |
サンプルデータ |
Viewer.4.05.tar.gz |
BioStation Viewer version. 4.05のみ.
実行ファイル,利用マニュアル,サンプルデータ,ソースファイル一式,インストーラ
|
Windows
2000/XP
Professional |
all_for_win.2.0-beta.zip |
BioStation version 2.0-betaのフルセット,
実行ファイル,ソースファイル一式,利用マニュアル,サンプルデータ,インストーラ
|
minimun_for_win.2.0-beta.zip |
BioStation version 2.0-betaの最小構成セット.
実行ファイル,ソースファイル一式,利用マニュアルなど
|
dat_for_win.2.0-beta.zip |
サンプルデータ |
Viewer_for_win.4.05.zip |
BioStation Viewer version 4.05のみ
実行ファイル,利用マニュアル,サンプルデータ,ソースファイル一式,インストーラ
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|
2 前バージョン (ABINIT-MP BioStation 1.0-Release) からの変更点
今回のリリースでは簡易インストーラが追加されました.ABINIT-MP が ver. 1.0 から ver. 2.0 beta へバージョンアップされました。主な変更点は,新機能であるab initio FMO-MP2法の実装です.またバグも修正されています。BioStation Viewer がver. 4.0 から ver. 4.05 にバージョンアップされました.
2.1 名称の変更について
昨年公開されたタンパク質―化学物質相互作用解析システムABINIT-MP BioStation の名称を BioStationに変更いたしました。“ABINIT-MP BioStation”は長すぎ,サブシステムとの名称の混同を招くという理由から名称を変更しました.今後,この名称を,公開されたソフトウェア全体を指す名称として使用します。バージョン番号は,ABINIT-MP BioStationのバージョンを受け継ぎ,2.0から始まります.
2.2 簡易インストーラ
インストール作業を容易にするために,UNIX/Linux用にinstall.shが,Windows用にinstall.batが追加されました.このインストーラは,インストール時にアンインストーラ,環境設定用ファイルを自動生成します.また,Windows用インストーラはスタートメニュと,デスクトップアイコンを生成します.表 2.1にこれらのファイルのリストを示します.
インストーラの使用法については,INSTALL.ja_JP.eucJPまたはINSTALL.ja_JP.sjis (日本語版),INSTALL.txt (英語版) をお読みください.
インストーラの導入によりUNIX/Linux版のコンパイル過程が若干変更されました.これについては2.5をご覧下さい.
表 2.1追加されたファイル.これらは配布ファイルall(フルセット),minimum(最小構成),Viewerで共通です.
対応OS |
配布ファイル |
機能 |
ファイル名など |
備考 |
Unix/Linux |
all.2.0-beta.tar.gz
minimuim.2.0-beta.tar.gz
Viewer.4.05.tar.gz |
インストーラ |
install.sh |
|
アンインストーラ |
BioStation.uninstall.sh |
インストール時に自動生成 |
bsh 用環境設定ファイル |
BioStation.cfg.sh |
インストール時に自動生成 |
csh 用環境設定ファイル |
BioStation.cfg.csh |
インストール時に自動生成 |
Windows
2000/XP
Professional |
all_for_win.2.0-beta.zip
minimum_for_win.2.0-beta.zip
Viewer_for_win.4.05.targz
|
インストーラ |
install.bat |
|
アンインストーラ |
uninstall.bat |
インストール時に自動生成 |
環境設定ファイル |
BioStation.cfg.bat |
インストール時に自動生成 |
メニュー |
|
インストール時に自動生成 |
デスクトップアイコン |
|
インストール時に自動生成 |
|
2.3 配布ファイルのフォーマット
Windows用配布ファイルのフォーマットがtar.gzからWindowsでよく使用されているzipに変更されました.
2.4 新機能
公開されたプログラムを表 2.2に示します.
表 2.2 公開されたプログラムの一覧.
名称 |
コマンド |
バージョン |
備考 |
ABINIT-MP |
abinitmp |
2.0-beta |
ab initio FMO法およびab intio FMO-MP2法による分子軌道計算 |
cpf2den |
2.0-beta |
abinitmp の計算結果から,BioStation Viewerのためのグリッドデータを作成 |
BioStation Dock |
bsdock |
1.0-beta |
・レプリカ交換法による結合状態探索
・abinitmp入力のため,複合体の立体構造作成
|
asp |
1.0-beta |
タンパク質活性サイト探索 |
bond_builder |
1.0-beta |
低分子向け不磯原子付加 |
BioStation Viewer |
BioStationViewer.jar |
4.05 |
・ABINIT-MPの計算結果の可視化・解析
・分子モデルの3D表示
|
BioStgation Launcher |
Launcher.jar |
1.0-beta |
各サブシステムのためのGUI |
|
2.4.1 ab initio FMO 法プログラムABINIT-MP
ab initio FMO-MP2法の組込
ab initio FMO法に基づいて,最も簡便な電子相関の計算法を取り入れた計算法である.ab initio FMO法では過大評価される電子の分極を補正することができる.タンパク質の立体構造形成に重要なvan dar Waals相互作用や水素結合をより精密に計算できる.高速に計算できる.
バグ修正
2.6を参照してください
2.4.2 in silico 詳細スクリーニング(テスト版)
結合状態探索プログラム bsdock
レプリカ交換法と新開発の分子間相互作用力場XUFFを使用する結合状態探索プログラム.
立体構造が少しずつ異なるレプリカ間のエネルギー差およびレプリカ間の温度を考慮して,低エネルギーの結合様式を探す.
エネルギーは修正平衡電荷法 (Modified QEq 法)とUFFを組み合わせて計算する.
タンパク質結合サイト予測プログラム asp
現在はpassと同じアルゴリズムでタンパク質の活性サイトを探索する.
水素原子付加プログラム bond_builder
低分子化合物データに省略されている(欠けている)水素原子のデータを,重原子のデータに基づいて追加する.
2.4.3 BioStation Viewerについて
下記の機能が追加修正されました.
(1) charge list表示機能の修正
(2) 非標準アミノ酸ACE対応処理を追加
(3) 画像出力ファイル形式にPNG形式を追加
(4) 2つの電子密度ファイルの差分表示機能を追加
2.4.4 BIoStation Launcher
各サブシステムのためのGUIを提供する.計算に必要なパラメータの入力,計算実行を行うことができる.
2.5 コンパイル過程の若干の変更
インストーラの導入に伴い,UNIX/Linux版のコンパイル過程が若干変更されました.これまでABINIT-MPのソースディレクトリ AB/src/ABINIT-MP でコンパイルするとき (ABは配布ファイルを展開したディレクトリ) ,
> cd AB/src/ABINIT-MP
> make ?f Makefile.x all
(xはコンパイルする環境を表す文字列) と入力すると,実行コマンドとして src/ABINIT-MP/abinitmp/abinitmpとsrc/ABINIT-MP/cpf2den/cpf2den が生成されます.この動作が変更され,abinitmipとcpf2den は AB/bin に生成されます.
2.6 修正されたバグ
下記のバグが修正されています.量子計算コマンドabinitmpについて重大なバグが修正されています.1.0-Releaseまたはそれ以前のバージョンを使用しているユーザには,早急に1.1-Releaseに切り替えることを勧めます.
2.6.1 基底関数の初期化
[重要度 高]
[症状]
基底関数STO-3G, 6-31G, 6-31G* で d 軌道を含む Br などを含む分子を計算すると,その結果が正しくない.
[対象バージョン]
ABINIT-MP BioStation 1.0-Release およびそれ以前のもの全て
[対象計算機環境]
すべて
[問題の詳細]
基底関数 STO-3G, 6-31G, 6-31G* で d 軌道の初期化処理が不足していたため,d 軌道を基底関数にもつ分子では正しい計算を行うことができない.不足していた初期化処理を追加した.
修正前と修正後の abinitmp で計算が正しく計算できる原子種をそれぞれ 表 1. に示す.修正前バージョンでは,基底関数に STO-3G,6-31G,6-31G* のどれを指定しても,第 4 周期の元素 Br で正しく計算できない.修正後のバージョンでは,正しく計算を行える.
表 2.3修正前後で計算結果が正しい原子種.OK は正しく計算できることを,NG は誤った計算をすることを表します.
名称 |
基底関数(注1) |
ABINIT-MP |
STO-3G |
6-31G |
6-31G |
原子種 |
修正前 |
修正後 |
修正前 |
修正後 |
修正前 |
修正後 |
第 1 周期 H |
OK |
OK |
OK |
OK |
OK |
OK |
第 2 周期 C, N, O, F |
OK |
OK |
OK |
OK |
OK |
OK |
第 3 周期 P, S, Cl |
OK |
OK |
OK |
OK |
OK |
OK |
第 4 周期 Br |
NG |
OK |
NG |
OK |
NG |
OK |
(注1) STO-3G, 6-31GはHF計算とFMO計算の両方に使用できる.6-31G*はHF計算に使用できるが,まだ ab initio FMO 計算には使用できない. |
|
2.6.2 cpf2denの出力データフォーマット
[重要度 中]
[症状]
異なる計算機環境上で作成した分子軌道用グリッドデータファイル (拡張子mo) をBioStaton Viewer 4.0 で読み込もうとするとエラーが発生し,データを正しく読み込むことができない.
[対象バージョン]
ABINIT-MP BioStation 1.0-Release
[対象計算機環境]
すべて
[問題の詳細]
BioStation Viewer で読み込める浮動小数点数のフォーマットは,次に示すように指数部分が E でなければならない (これは Viewer の開発言語である Java の仕様である).
123.456E-78
Fortran90 の浮動少数点数の書式では E または D で指数部を表しており,フォーマットが指定されないとき,どちらの形式で出力されるかは環境 (コンパイラ) 依存である.cpf2den を必ず E 変換で出力を行うように修正した.また,BioStation Viewer も D 変換の浮動小数点数を読めるように修正した.
2.6.3 コンパイル時のヘッダーファイル
[重要度 中]
[症状]
abinitmp が,アドレスエラーをおこし計算を実行できない.
[対象バージョン]
ABINIT-MP BioStation 1.0-Release
[対象計算機環境]
MPICH ver. 1.2.5 以外の MPI 実装系を使うものすべて
[問題の詳細]
ABINIT-MP BioStation 1.0-Release には,誤って MPICH ver. 1.2.5 のヘッダーファイル (AB/src/ABINIT-MP/abinitmp/mpif.h) が含まれたまま,配布されていた.このファイルは abinitmp のソースディレクトリAB/src/ABINIT-MP/abinitmp (ABは配布ファイルを展開したディレクトリ) にある.このため,MPICH 以外の MPI 実装系を利用する場合abinitmp のコンパイル時に MPICH ver. 1.2.5用の mpif.h が読み込まれ,利用したい MPI実装系の mpif.h が読み込まれない.その結果,MPI関数定義などに齟齬が生じる.
誤って配布されている MPICH 用の mpif.h (AB/src/ABINIT-MP/abinitmp/mpif.h) は消去された
2.6.4 フラグメント分子軌道の番号付け.
[重要度 中]
[症状]
分子軌道を表示させるとき,HOMOとLUMOの間にエネルギーレベルがあるように灰色の線が表示される.
[対象バージョン]
ABINIT-MP BioStation 1.0-Release,BioStation Viewer 4.0
[対象計算機環境]
すべて
[問題の詳細]
cpf2denで分子軌道用グリッドデータを作成するとき,分子軌道の番号付け処理に抜けがあるために,余分なデータを出力しているためである.このバグが発見された環境では特に問題にならにが,動的にとられた配列の範囲外を参照するため,計算途中で cpf2den が異常終了する可能性があった.
3 制限事項
3.1 ABINIT-MP
電子構造計算プログラム abinitmp には,構造最適化がありますが,この機能はまだ開発中であるため,計算環境により,計算途中で異常終了する,計算結果が正しくないなどの現象がおきることがあります。現在,遷移金属を持つ系は計算できません.共役系はFMO法とはあまり相性が良くありません.
4 インストールおよびアップグレード
4.1 インストール
下記の説明ファイルをよく読んでインストールしてください.
日本語版 INSTALL.ja_JP.eucJP(UNIX/Linux用),INSTALL.ja_JP.sjis(Windows用)または
英語版 INSTALL.txt
4.2 旧版からのアップグレード
アップグレードを行う前に大切なデータはバックアップを行ってください.次に旧版を削除して 4.1にと同様にインストールします.
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