僕たち次世代構造解析グループの紹介ページにも書いてありますように、僕たちのグループでは、現在の数値シミュレーション技術では解析が非常に困難とされるテーマを9つほど選んで、CAE(Computer-Aided Engineering)におけるグランドチャレンジング問題と位置づけて、数値シミュレーションの可能性の限界に挑戦しています。
たとえば、高層ビルや高速道路の高架橋の崩落や、浮上列車の走行シミュレーションなどのテーマがその1例ですね。これらのテーマは、皆さんにも「確かに、工学的な研究だな」と思っていただけることと思います。しかし、その一方で、僕たちのグループでは、100枚の枯葉が舞い散る様子、アコースティック楽器が鳴り響く様子、昆虫が羽ばたきする様子といったものまでをテーマとしています。……季節は秋。枯葉が静かに舞い散るなかで、バイオリンの音色が切なく響き、冬を迎える昆虫が力なく羽ばたきしている……とくれば、これは科学のテーマというよりは、もはや文学のテーマではないかという気もしてきますね(笑)。
だけど、こんなテーマでも、ちゃんと学問的あるいは実用的な深い意味を持っているんですよ。たとえば、100枚の舞い落ちる枯葉。これを理系っぽく表現すると、「大規模並列流体――移動膜構造連成解析」ということになる。そして、ごく一般的に言えば、薄い膜と流体の相互作用の計算は、数値的な不安定性があって非常に難しいものなんです。そもそも、流体解析の数値解析シミュレーションそのものがべらぼうに難しい問題だし、そこにやはり数値計算が難しい膜構造の解析シミュレーションの問題が絡んできたら、これはもう絶望的に難しいテーマになってしまう。
さらに、枯葉の落下に伴って、流体側の計算格子を連続的かつ高速に更新していかなくてはならないんですが、これがまた難しい。そして、流体力学の莫大な数値計算を処理するためには、100個とか1000個とかの大量のCPUを同時に稼動して計算を進める「並列計算機」を使わないといけないのですが、こういう並列計算機で、空間中を移動していくような物体を取り扱うのは、プログラミング的にも非常にしんどい作業になってしまう。
だから、100枚の枯葉の問題が解析できるようになるというのは、数値シミュレーション技術にとって、画期的な意味を持つんです。枯葉というのは、あくまでも象徴的な言い方なんです。しかも、論文みたいに専門用語で言いくるめるのと違って、客観的な数値で結果を示さなければならないので、ごまかしが効かないんです。研究員泣かせのテーマですね(笑)。
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