• センター長挨拶

    吉川暢宏センター長・教授   2023年4月から、革新的シミュレーション研究センター(Center for Research on Innovative Simulation Software、略称CISS)は、4期目の活動をスタートさせました。
     CISSは、2008年1月に東京大学生産技術研究所附属研究施設として設置され、2013年4月と2018年4月の2回の改組を経て、1) 世界をリードする先端的シミュレーションソフトウェアの研究開発、2) 研究開発成果の社会への普及、3) シミュレーションソフトウェアを開発・利活用できる人材育成のための研究・教育基盤の強化を目的に活動を行ってきました。
     第4期では、第3期までの活動を発展させ、工学における課題解決と価値創成への貢献の観点から、今後のシミュレーション技術の果たすべき役割は「材料開発に始まり設計と製造を経て実用に供され最終的に廃棄に至るまで、人工物がたどる一連の段階を一気通貫で事前にシミュレーションし、それぞれの段階で起こりえる課題を事前に予測し解決手段まで提示すること」にあると考え、そのようなシミュレーション技術の開発と活用をセンターが実現すべきビジョンとして定義し、活動を行うこととしています。
     具体的には、力学のコアコンピテンスの再構築と飛躍的な強化および先端的シミュレーションソフトウェアの研究開発のための基盤技術の開発に関する活動を行うとともに、開発したソフトウェアと獲得したデータのオープンサイエンス化と社会普及、および、HPC(High Performance Computing)・データ科学融合のシミュレーションソフト技術の開発とそれを利活用できる人材育成のための教育基盤の強化に取り組みます。
     先端的シミュレーションソフトウェアの研究開発の一つの活動として、CISSでは、発足した2008年からこれまで、文部科学省次世代IT基盤構築のための研究開発「イノベーション基盤シミュレーションソフトウェアの研究開発」(2008年10月から2013年3月)をはじめ、文部科学省「HPCI戦略プログラム」分野4 次世代ものづくりプロジェクト(2011年度から2015年度)など、多くの国のプロジェクトを推進し、HPC環境で効率的に稼働する基盤的なシミュレーションソフトウェアを研究開発し、実用化してきました。
     上記で開発したシミュレーション技術を利用して、2018年度からは、首相のカーボンニュートラル宣言で一気に加速した水素社会構築事業の一翼を担う国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトを継続的に実施しています。現在は、2024年度までの予定で、「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/水素利用等高度化先端技術開発/機械学習を用いた高圧水素複合容器の最適設計技術に関する理論検討及び実証」を実施し、大規模有限要素解析と機械学習を融合させた最適設計のためのIT基盤の構築に係る研究開発を実施しています。
     また、2023年4月から3年間の予定で、文部科学省「『富岳』成果創出加速プログラム」「AIの活用によるHPCの産業応用の飛躍的な拡大と次世代計算基盤の構築」を、代表実施機関(課題責任者加藤千幸教授)として推進しています。このプロジェクトは、AIの活用によってHPCの産業応用を飛躍的に拡大できることを実証し、研究開発により得られたソフトウェアの広汎なものづくり分野への展開に貢献するものです。「HPCI戦略プログラム」で構築した強力な産学官連携体制の下で進めてきた、「京」や「富岳」を用いた開発シミュレーションソフトウェアの実証研究を継続して進めてまいります。そして、これまでと同様に、我が国の産業競争力の強化に貢献すべく、先端的シミュレーション技術の研究開発の取り組みも強力に牽引していく所存です。
     引き続き、CISSの活動に対し、皆様方のご理解とご支援を頂ければ誠に幸いです。

    令和5年6月
    センター長 吉川暢宏

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