次世代量子化学計算システムでは、本システムの骨格であるProteinDF、ならびにその計算をサポートするQCLO(擬カノニカル局在化軌道)計算プログラムを公開する。これらの計算のためのグラフィカル・ユーザ・インターフェースである Scenario Editorも併せて公開する。
ProteinDFは密度汎関数法による大規模量子化学計算プログラムで、様々な反応を行う金属タンパク質の電子の振る舞いを、高い精度で予測することができる。104個のアミノ酸とヘム(鉄ポルフィリン)が結合したタンパク質シトクロム c(1,738個の原子、6,586個の電子を持っている)を世界で初めて丸ごと計算した実績がある。
QCLOは、ProteinDFによるタンパク質の精密計算をサポートするために、新たに開発したプログラムである。実は、タンパク質のサイズが大きくなればなるほど、また計算が精密になればなるほど、金属タンパク質の電子の振る舞いを正しく計算することが困難となる。
いまだに、金属タンパク質を丸ごと扱った密度汎関数法計算は、前述のシトクロムc以外は報告されていない。これを例に取ると、数十億個の中間データを専門家が一つ一つ解析しながら何十回も計算ルートを修正し、達成までに約2年の歳月がかかっている。このままでは、
今後いくらコンピュータが高速になっても、汎用的に金属タンパク質の反応解析を行うことは不可能である。そこで、当グループは、全分子の計算よりも遥かに少ない計算量で、大変よく似た結果を与えるよう工夫したQCLO(下図)を計算するプログラムを開発した。QCLOから計算を出発すれば、
安全に全分子の計算を達成できるし、QCLO自体を最終結果として代用してもほとんど遜色がない。
また、QCLO計算やProteinDF計算を、計算者がコンピュータグラフィックスを用いて、滑らかに実行するためのプログラムScenario Editorも併せて公開する。以上の成果は、今後多くの計算者が、自由にタンパク質の精密なシミュレーションを行うのに不可欠な基盤となるであろう。 |