フリーメッシュ法解析


特 徴

有限要素法(FEM)は、計算精度に関して変分原理などの数学的裏付けを有している上に、非構造格子によって複雑な形状を表現することが可能であることから、基礎研究ではもちろんのこと、エンジニアリングの現場でも幅広く利用されている。しかしながら、その最大の欠点は有限要素メッシュの生成にあり、解析対象が大規模で複雑な形状を持つ場合には、多くの人手を要する困難な作業となり、多大な処理時間を消費するものになる。極端な例としては、解析そのもの(メインプロセッシング)は、数時間から1日そこそこで終わるのに、メッシュの生成(プリプロセッシング)に数週間から数ヶ月もかかってしまうという事例さえ報告されている。また、大規模計算モデルに対する数値シミュレーションには、PCクラスターや並列型スーパーコンピュータといった並列計算機を用いることが一般的になっているのにも拘わらず、メッシュ生成では、大局的な、すなわち逐次的な処理を要するアルゴリズムが用いられている場合が大部分である。近年、大規模メッシュの生成における並列処理の必要性が認識されて、いくつかの並列メッシュ生成の事例も報告されているが、いずれも基礎研究の段階に留まっており、エンジニアリングの現場では、未だに単体のPCもしくはワークステーションで作成されている場合がほとんどであると言ってよい。したがって、移動境界問題、大変形を伴う問題、亀裂進展問題、破壊現象、解適合(アダプティブ)流体解析など、頻繁な計算格子の再生成を要する問題を超並列計算環境で解析できるソフトウェアは、まだ実用化されていないのが現状である。

節点処理型の有限要素法であるフリーメッシュ法(FMM)[1,2]は、このような通常のFEMではメッシュ生成が解析全体のボトルネックとなってしまう問題に対して、節点単位に局所的なメッシュを生成しながら連立方程式を構成していくことによって解決を試みるものである。FMMでは、解析領域に分布させた節点群のうち、一つの節点を中心節点として、周囲の節点を用いて局所的な有限要素メッシュを生成する。局所メッシュを構成している要素(衛星要素)について、FEMにおける要素係数行列のうち、中心節点に対応する成分のみを計算した上で、全ての衛星要素の成分を足し合わせる。こうすると、中心節点に対応する全体係数行列の非零成分が求められる。以上の操作を全節点に対して行うことによって、通常のFEMに一致する連立方程式を求めることができる。すなわち、FMMは、解析対象に適切に節点を配置した上で、各節点の周辺に品質のよい局所メッシュ生成して有限要素解析を進めるという、いわば、粒子法的な有限要素解析(Particle-like finite element analysis)を実現するものである。とくに、局所的なメッシュ生成から求解までのすべてのプロセスを節点を単位として並列に処理することが可能であることから、超並列環境において、頻繁にメッシュの再生成を行う必要がある問題を取り扱う場合に極めて有効な手法となる[3,4]。


FMM解析機能の全体構成


図1 Overview of FMM analysis functionality


次世代構造解析サブシステムにおけるFMM解析機能は、図1に示すような4個の解析モジュールおよび4個の共通使用ライブラリから構成される予定である。解析モジュールは、流体系の解析モジュールである流体音響解析モジュールならびに移動境界流体問題解析モジュールと、構造系の解析モジュールである破壊力学解析モジュールと生体力学解析モジュールの計4個である。流体音響解析モジュールは、計算した流れ場の状態に適応してメッシュを再生成しながら解析を進めるアダプティブ流体音響解析を行うものであり、与えられた計算機パワーの中で高精度に流体から発生する音響の計算を行う。移動境界問題流体解析モジュールは、自由表面流れや流体―構造連成解析など、流体の境界が移動する問題に対して、移動する境界に対応してメッシュを適切に再生成させながら解析を行うものである。一方、破壊力学解析モジュールは主に亀裂進展問題を、生体力学解析モジュールは靭帯など超弾性かつ大変形が起こるような問題を扱う。これらも、解析の時間進行に伴って、頻繁にメッシュを再生成することが求められる問題である。なお、FMMにおいては、解析領域全体にわたってメッシュを再生成させるのではなく、必要がある部分のみのメッシュを再生成させる。これによって、本質的にはFEMという計算格子に基づいた計算手法に基礎をおきながらも、粒子法的な効率のよい解析を実現することができる。

以上のFMM解析機能の各解析モジュールは、並列節点生成ライブラリ、並列メッシュ生成ライブラリ、並列負荷分散最適化ライブラリ、FMM用並列ソルバの4個のライブラリを共通して使用する。並列節点生成ライブラリは、与えられた解析領域に対して並列に節点を生成するものであり、節点間隔場関数で節点間隔を制御する。アダプティブ解析の場合には、計算結果から誤差評価を行って、節点間隔場関数を求める。並列メッシュ生成ライブラリは、各節点の周囲に局所的に有限要素メッシュを生成する。このプロセスは、節点単位に独立して行うことができるため、節点を単位とした並列処理が可能である。並列負荷分散ライブラリは、米国ミネソタ大学で開発された並列グラフ分割ソフトウェアParMETISをカーネルとして用いた並列環境における負荷分散の最適化ライブラリである。すなわち、並列ソルバでのプロセッサ間の通信量を削減して、計算の効率を向上させるために、節点番号のリナンバリングを行う。FMM用並列ソルバは、FMMデータ構造に基づいた並列反復ソルバである。このライブラリは、《地球シミュレータ》などのベクトル型スーパーコンピュータで十分な性能を引き出せるように、最大限、ベクトル処理を行う。以上の4ライブラリをまとめて「FMMエンジン」と総称する。

図2に各解析モジュールと共通使用ライブラリ(FMMエンジン)の関係を示す。各解析モジュールはファイルの形で、入力データ(ADV表面パッチ、材料情報、境界条件など)を受け取る。各解析モジュールは、関数(API)でFMMエンジンを呼び出す。各解析モジュールからADV表面パッチ、境界条件、節点間隔場関数をFMMエンジンに渡すと、境界条件を付与されたメッシュデータが返される。各解析モジュールは、メッシュの再生成が必要となる度にこのようにFMMエンジンを呼び出すことになる。

従来のFEMに基づいた解析と、FMMによる解析の大きな違いは、プリプロセッシングとメインプロセッシングの両者を節点を単位としてシームレスに取り扱うことにより、このようなメッシュの再生成が頻繁に求められる問題を次世代の標準的計算環境である並列計算機で高効率に処理できることにある。


モジュールとライブラリの関係


図2 Relationship between analysis modules and FMM library



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応用分野

MPS法解析コードは、従来の手法では難しかった大変形や破壊を扱うことができる。従って、2.5.5の解析事例に示すような、柔らかい物質や、もろい物質を計算力学の対象として新たに加えることが可能になった。

応用としては、自動車事故、タイヤの変形、プラスチック成形加工、塑性加工、マイクロ生化学機器、生体などが考えられる。

一方、大変形の解析をCGとして表現できる技術については、CG技術としてそのまま応用できるだけでなく、力学的に正しい表現になっていることから、外科手術のシミュレータや運動最適化などへの発展も考えられる。



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参考文献
[1] Yagawa G, Yamada T. Free mesh method: A new meshless finite element method. Computational Mechanics 1996; 18:383-386.
[2] Yagawa G, Furukawa T. Recent developments of free mesh method. International Journal for Numerical Methods in Engineering 2000; 47:1419-1443.
[3] 矢川元基・藤澤智光, 広義のメッシュレス法としてのフリーメッシュ法とその並列化, 計算工学,Vol.7, No.1,日本計算工学会編集, 2002, pp.415-418 (pp.7-10).
[4] Yagawa G. Node-by-node parallel finite elements: A virtually meshless method Proceedings of the Fifth World Congress on Computational Mechanics (WCCM V), http://wccm.tuwien.ac.at/, Vienna, 2002.




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