シトクロムcの全電子計算


本システムの基となるProteinDFは密度汎関数法による世界初の金属タンパク質全電子計算を達成したプログラムです。計算分子は馬心筋シトクロc(図1)で、1つのc型ヘム(Feプロトポルフィリン)を持つ104残基の典型的なヘムタンパク質です。生体内では呼吸鎖中でヘム鉄の酸化還元を利用してタンパク質間の電子授受を担っています。原子数、電子数、使用した軌道および補助基底関数の総数はそれぞれ1,738、6,586、9,600および17,578という大規模なものです。






図1:シトクロムcの立体構造


図2のグラフィックスはd6-low-spinフェロシトクロムcの最高占有軌道(HOMO)を様々な等値面の値で描いたもので、等値面の値は±0.05 (左上A), ±0.005 (右上), ±0.0005 (左下), ±0.00005 (右下)。(A)はスケールを倍にして描いています。HOMOはヘム鉄のdxyを主成分とする軌道ですが、鉄原子の3d軌道に比べて比較にならないほど広がっており、タンパク質分子表面をはみ出したところでもかなりの値を持っていることがわかります。この特徴がシトクロムcの電子授受の機構に重要な役割を果たしているものと考えられます。このように、タンパク質の軌道は小分子のものとは異なる観点から注意深く観察しなければなりません。今後、さらにタンパク質に特有の新しい表現方法を開発する必要があるでしょう。






図2:フェロシトクロム c のHOMO(3293番目の分子軌道)。等値面の値は±0.05 (左上A), ±0.005 (右上), ±0.0005 (左下), ±0.00005 (右下)。(A)はスケールを倍にして描いている。


 




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